自分は、人々の最後の希望であり、勇者なのだ。
文字通り、勇ましく、闘わねばならない――!
「く…ッ!」
今一度、胸中の覚悟を正视して、ディルトが目の前に横たわった现実をまじろぎもせずに见つめ下ろしたその瞬间――。
ずるり……。
「!!!!」
まるで重たい生肉を引きずるような、生々しくも気味の悪い音色と共に、その物体はディルトの眼前へ遂に姿を现した。
08
「な、なん……ッ!!」
ずるり。
湿った石材を柔らかく重たい肉が擦るような、不気味极まりない音に両耳の鼓膜を侵されて、ディルトは无意识のうちに後ずさった。
ずるり。
闻こえた音の主は分からない。
目を凝らしても、暗い闇の支配する牢の中では、ディルトの目に使者の姿は映らなかった。
ずるり、ずるり、ずるり、ずるり……。
「くッ……!」
ゆっくりと、だが确実に、重く引きずられるような音色はディルトに向かって近づいてくる。
どこだ……!
どこに、いる……!!
见えぬ视界を上下左右に动かして、敌の姿を悬命に模索するディルトの耳には、変わらず絶え间ない不协和音が届き続けた。
「く、そ……ッ!」
そうして、见えぬ敌影に身を固めつつ、唯一のレーダーとなった聴覚を研ぎ澄ませながら、乾いた口腔で短く唾液を咽下した……时だった。
ずるり……!!
「!!!!」
ひどく近い场所で、唐突に响いた音色に、ディルトが『しまった…!』と身を跳ねさせた时にはもう遅かった。
ずるうッ…!!
「ッ!!」
太い枷に挟まれ、锁に繋がれたディルトの右の足首に、何か得体の知れぬねっとりとした物体が、络みつくようにしてその身をまとわりつかせたのだ。
こ、こいつは……!!
足に络んだ敌の正体を、瞬间的に察知したと同时に、ディルトは全身を捩って、その束缚から逃れようと跃起になった。
なぜなら。
テール……!!
头に浮かんだ固有名称を、噛み缔めた奥歯ですり溃しながら、ディルトは満足に动かす事のできぬ右足を暴れさせると、何とか相手を振りほどこうともがき続けた。
テール。
人间たちにそう呼称され、忌み嫌われるこの生物は、その名称とは里腹に、正しくは尻尾とは何の関系もない生物だ。
では、なぜそう呼ばれるか。
それは、ひとえに彼ら……いや、奴らの行动习性のせいだった。
ぬるぬるとした触手が、几本も几本も络み合ってひと块になったような姿をしたこの生物には、手足や胴体はおろか、目や口、その他の主要な肉体器官が存在しない。
つまりは、彼らには视覚もなければ聴覚もない、あるのはひどく原始的な食欲という欲求と、それに付随する捕食冲动だけなのだ。
ぬめる粘液をまとった触手をうねらせながら获物に近付き、その太く长い肢体を使って対象物を络め取る――しかし、彼らにできるのはそこまでなのである。
口を持たぬ、という事は、言い换えれば获物を仕留める为の歯牙をも持たぬ、という事だ。
捕食対象物に致命伤を与える牙もなければ、この生き物のみが持つ特有毒素を持つ訳でもない。
では一体、テールはどうしてまとわりついた対象物を『捕食』するのか。
それは――。
「くッ…!离せ…ッ!!」
右の足首に络みついた太い触手から逃れようと、ディルトは必死になって下半身をばたつかせたが、一度『対象物』に取り付いたテールは、容易に引きはがす事など不可能だ。
「く…そ…ッ!!」
时间を経るごとに、ゆっくりと、だが确実に足首を缔め付けてくるテールの刚力に顔をしかめると、ディルトは己の背中に嫌な汗が浮き上がるのを自覚する。
そう、あれは确か、随分と昔の事だ。
ディルトが骑士団に入団して间もない顷、教育系となってくれた上位骑士に导かれながら狩りに远征した事があった。
狩り、と言っても、通常のや熊を狩る『狩り』ではない。
それは骑士団にのみ许された、いわゆる魔物を扫讨する行为を指す『狩り』だったのだ。
朝早くから城を発ち、夕暮れになるまで『狩り』は続いた。
无论、そ