絶対に……絶対に谛めてなるものか……!
目の前で行く手を阻むかのように镇座する鉄格子の向こう侧は、暗闇に惯れ始めた瞳でも见通す事ができぬ程に暗い。
…………つまりは……捕らわれたのだ。
志半ばで倒れていった仲间たちと同じように、自分はこのまま、死を超えた向こう侧の世界へと足を踏み込むのだ、と、そう思っていた。
「ぐ……ッ…おおおおお…!!」
「ぐ……っおおおお……!!」
「…………っ」
意识を取り戻したディルトの视界に飞び込んだのは、美しくほころぶ花々に取り囲まれた楽园でも、友爱に満ち満ちる旧友たちの待つ円卓でもなく……硬く、冷え切った、暗闇だったのだ。
拘束具に捕らわれたままの両足を踏ん张ると、汗とは违う生温かい感触が、ゆっくりと胸元を滑り落ちていく。
全身に力を込めると、肩口の伤が开き出すのが自分で分かった。
ディルトが身体中の力を込めて己の手首をねじるたび、雑に仕上げられた钢鉄制の手枷の表面は、湿った肌を力强く擦り上げて、やがて柔らかな皮肤からは真っ赤な血液が渗み出す。
必ず……必ず……!!
それでもディルトは。
必ず……必ずここから脱出するのだ……!
「く……!」
行くのだ……!
何があっても。
自身の手足にがっちりとはめ込まれた钢鉄の枷と锁を见下ろしながら、ディルトは忌々しげに吐息を吐いた。
だが、それでも。
汗にまみれた额を、湿りれた岩肌のごとき床の上へと押し付けて、呻きを上げながらも、红く染まった手首を鉄枷に向けて押し付け続けた。
「く…うう……ッ!!」
己の目の中へと飞び込んできた决定的な捕缚の证を、细めた瞳で睨みつけつつ、ディルトは屈辱感に苛まれながら、再び低く小さく呻きを上げる。
だが。
浑身の力を振り绞って身体中に力を込めると、暗い牢狱の中でディルトの锻え抜かれた肢体に浮き上がった筋肉が、汗と血液の反射を受けて、なまめかしく光った。
痛む身体を庇いながら、ゆっくりと半身を起そうとして、ディルトは自らの手足が何か硬い物で拘束されている事に気が付いて唇を噛んだ。
ここまできて、ようやくディルトは、己の置かれた现状を理解し、同时になんとしてでもこの状况を打破しようと奋起し始めた。
人々から『勇者様』と呼ばれ、慕われ、そして最後の光明として愿いをかけられた自分は……!
暗い色をした岩肌が剥き出しになったような床や壁、低く湿った不気味な天井、そして。
鉄枷か……。
必ず生きてこの暗く阴湿な牢狱から脱け出し、そして――!
自分は……!
次第に暗闇に惯れ始めた双眼で辺りを见回すと、ディルトの视界には新たな情报が、暴力的に飞び込んでくる。
生きている――!
钝痛をこらえながら身体を捩ると、唇の中では、黒い血液の味ががった。
重い手足に力を込めて、引きずるように持ち上げると、ジャラリ、と钝い音色が鼓膜を揺する。
必ず……必ず取り戻すと、自分を见送る人々に……そして、共に戦った仲间たちに誓ったのだ……!
「く……そ…ッ……!」
ルトはもう二度とは目覚める事はないと覚悟していた。
どうあっても。
自分は……自分は世界中で平和を待つ人々の为に……そして、他でもない、共に剣を取った亲友の、あいつの为に……!
「く…そおお……っ!」
「く…っ!」
锖びついて、変色した、太く顽丈そうな鉄格子。
「く……そ……っ」
灯りのひとつもない狭小空间で、钢鉄の枷によって手负いの四肢を拘束されて、まるで物のように地べたの上に転がされている――。
「く……う、う…!」
世界の平和と、安宁の笑みを……取り戻すのだ――!
自らの出立を歓声と声援で见送る人々の姿を脳里に描くと、ディルトは奥歯を噛み缔めながら手足をひねって、鉄枷の冷たい拘束から逃れようと跃起になった。
最前の梦の中で、真っ赤な血に濡れながら我が身を见つめる男の顔を头の片隅に思い返しながら、ディルトは必至に头を振って上下の歯列を食いしばる。
「く……そ……っ!」
ここで、自分の人生は终わるのだ。