て去った。
今は……今は……。
耐えるのだ……。
「…………」
目の前で自分を见下ろし、目を细める魔族と、それとは対照的に揶揄するような视线で牢の中を覗き込むもう一方の魔族を见据えて、ディルトは今一度决心した。
耐えるのだ――。
「…………」
怒りのせいか、それとも力任せに握り缔め続けたせいか、すっかり感覚の无くなった拳を再び握ると、手の中では血液の固まった嫌な感触が生まれていた。
05
「まあそんな事はどうでもいいか。ともかく、俺たちは仕事をしなきゃならねえからよ。テメエにももちろん协力してもらう事になるぜェ、勇者サマよ」
「……なん、だと?」
无言のままで睨みあってから、ものの数十秒した时だった。
ディルトの前へ後から姿を现した方の魔族が、短く鼻を鸣らしながら言い切ると、それを引き金にしたように、隣で身を屈めていた魔族もゆらりと身体を持ち上げ立ち上がったのだ。
「ああ、そうだったな。俺とした事が勇者サマがお目覚めのせいで肝心な仕事の事を忘れちまってた。それじゃあまあ、今はそっちを片づけっかなァ。その为には……まずはこの勇者サマにもっとちゃんとした拘束具を付けてやらなきゃならねえんだったなァ…!」
にやりと口角を上げる魔族を前に、ディルトの背中には冷たい汗が伝い落ちた。
仕事――。
短く告げられたその単语に、一体どんな真意があるのだろう。
『もちろんテメエにも协力してもらう』
つまりは、恐らく……。
投げつけられた一方的な言いぶりと『拘束具』という不穏な単语に、ディルトが身を硬くした次の瞬间だった。
狭い牢狱の中で、がちり、と钝い音がした。
键が――!
瞬间的に察知して、弾かれたように音のした个所へ视线を向けると、そこではディルトの思った通り、太い格子が武骨な指先によって开かれていく最中だった。
今が……!
最後のチャンスかもしれない――!
そう思い至った瞬间に、ディルトは身体を跳ね上げ、仅かに开かれだした鉄格子に向かって飞びかかっていた。
いや。
正确には、飞びかかろうとして、半身を浮かせた――所だった。
「ぐああッッ!!」
刹那、湿った牢内に响き渡ったのは、牢の扉を打ち破る音でも、魔族たちの悲鸣でもなく。
「はん、バカが。牢の扉を开けるのに、警戒もしねえヤツがいるかよ」
ざり、と湿った砂を踏む音が响くと、暗褐色の肌をした魔族が、倒れ伏したディルトを蔑むように见下ろしながら、身体を屈めて牢の扉をり抜ける。
「ぐ…う…あああ……!」
「それとも何か?こいつら魔族はそんな事も考えられねえ程度の头しか持ってねえ、と思ったってか?」
濡れた床の上、うずくまりながら呻くディルトに歩み寄りつつ、魔族はせせら笑うように口角を吊り上げた。
「おいおい、あんまりバカにしてもらっちゃ困るぜ勇者サマ。俺たち魔族はな、テメエら人间が思うより、ずっと头もサエてるし、ずっと色々考えてるぜェ?その证拠に……」
「ぐあッ!!」
「ほうら、な?こうして攻撃する时も、ちゃーんと……伤を负った场所を狙ってるだろォ?」
「ぐ、ううううッ!!」
あまりにもあっけなく打ち砕かれた淡い希望に、ディルトが与えらえる激痛と共に激しく呻くと、その头上では、魔族の男が嬉しそうに微笑する。
「なあ、勇者サマ。どうだよ、俺たち魔族も、中々考えてるだろォ?」
「ッ!!ああああッッ!!」
伤の开き出した赤い血の渗む肩口を、男はその図体に见合った巨大な足で、押しつぶしながら踏みにじる。
「へへへ…!いいザマだぜ、勇者サマ。徒党を组んで勇ましく戦ってる时とは、随分违う丑态じゃねえかよ。なあ?」
「ぐ…ッああああ!!」
「ははッ、なんだ?どうしたよ勇者サマ。やっぱりテメエも所诠は人间だってか?血が出りゃ痛てェ。伤つきゃ辛れェ。なんだよ。そんな事で勇者なんて名乗っていいのかァ?」
「ぐあッ!!ああああ…ッ!!」
何度も、何度も。
魔族の男は、嗤いながらディルトを踏みにじる足先に力を込める。
その度に、鋭い爪の光る足の下