では、赤い血液が渗み、がり、それはやがて、硬く沈黙する床材を、生温かく染め上げていった。
「はん、本当はこのまま、嬲りに嬲って杀してやりてえ気もするが、さすがにそれはできねえんだよなァ。なんたって、大司祭様の言いつけでテメエは生かしておかなきゃならねえ」
「ッ……」
不服そうな台词とは里腹に、魔族は眼下のディルトの身体を尚も力强く踏みにじると、それからにやりと、満足そうに頬を歪める。
「なァ、勇者サマ。テメエもなんだかんだで不幸なヤツだな。テメエがもっと弱い人间で、魔王様の前で倒れた时に死んじまってれば……くくくッ!まあそんな话はしなくてもいいかァ。どっちにしろ、お前は不幸にも生き延びちまった。それで、これから、その命拾いしちまった命をもって、偿わなけりゃあならねえんだ。俺たち魔族に向かってよォ……!」
「な、に……ッぐああッ!!」
「はは、まあ今は余计な事は考えねえでいいぜ。とりあえずは……俺たちゃ司祭様に言いつけられた『仕事』を遂行しなきゃならねえからよ…!!」
「ッ!うぐうッ!!」
大きく横に割れた口元を、今まで以上に丑く歪めた瞬间に、魔族は伤つき倒れたディルトの身体を力任せに蹴り上げて、そうして牢狱内には、ディルトの低い呻き声と、その四肢から繋がる锁が岩肌を叩き上げる音だけが、长く长く响き渡った。
06
「さてと、いい加减こうしてんのにも饱きたしなァ。そろそろ『仕事』に取り挂かるとすっかァ」
「ぐ…うう、う……ッ」
蹴り上げられ、踏み溃され、また蹴り上げられて……そうして一体どれほどの时间を过ごしたのだろう。
几度となく硬质な岩肌に叩きつけられ、今や青黒くうっ血した背中を屈めながら、弱々しくも荒い呼吸を缲り返すディルトの身体を、魔族の男は乱暴な手つきで引きずり起こすと、それと同时に牢の格子扉の方へと顔を振り向け、仲间の魔族に向けて目顔で短く合図を送る。
「おう、待ってろ」
牢内からの无言の要望に、こちらも短く颔いた魔族が、片手に何かをえて格子扉をり抜ける。
あの扉をれたら――。
自らの血と、砂利でれた頬を、じっとりと濡れた床へと押し付けながら、ディルトが悔しげに奥歯を噛み缔めると、その头上では、魔族の男がニヤニヤと嗤いながらディルトの握りしめられた両手に武骨な木制の手枷を取り付ける。
「しっかり拘束しとかねえと、この勇者サマは元気ヨすぎて逃げちまうかもしれねえからなァ!」
「く…ッ!」
冷笑する魔族の男に、木枷でひとまとめにされた両手を身体の後ろに回されて、ディルトは轧む両腕の痛みと共に悔しさと无力感に唇を噛んだ。
「さあて、こっちはこれで准备完了だ。おい、そっちはどうだ?」
顽丈な木枷がディルトの双腕の自由を完全に夺った事を确认しながら男が言うと、もう一方の魔族も薄い笑みと共に颔いて、狭い牢狱の床の上へと手にしていた何かを设置する。
「おう、こっちもオッケーだ。これでこの勇者サマも……ククククッ!」
喉の奥からいやらしい嗤いを漏れさせる魔族を前に、ディルトはなす术もなく眼前の鉄格子を睨む事しかできなかった。
「よォし、そんじゃあ後はこの手枷を锁に繋いで……へへへ、どうするよ?勇者サマよォ。これでとうとう自由に动き回る事もできなくなっちまうぜェ?」
「く…ッ」
「くくく、ホントは完全に拘束した状态でもう何発か殴ってこのお绮丽なツラを真っ赤に染めてやりてえけど、それはまあ、人间の言う『武士の情け』ってヤツで许してやるよ。それに、せっかくの勇者サマの顔があんまり丑く肿れ上がってちゃあ、见世物観てる方も兴醒めかもしれねえしなァ!」
耳元で告げられた『见世物』の言叶に、ディルトが『何を…!』と言叶を尖らせるよりもずっと早く、傍らの魔族は、天井から垂れる钢鉄の锁を掴み缔めると、その分厚い金属片の先端を、ディルトの両腕を束缚する木枷に固定する。
「よォし、これで完了だ。へへ、勇者サマ、益々无様で……イイザマだぜェ?」
「ッ……」
がちり、と短く钝い音と共に、隣り合わせで拘束された両腕が天井からぶら下げられるように固定され、遂に言叶通り完全なる囚われの身となったディルトの前で魔族たちは愉快そうに鼻を鸣らして嗤い合った。
「そんじゃ、まあ、ゆっくり楽しめよ、勇者サマ。俺たちに远虑なんかしなくてい