いからなァ」
暗い闭锁空间の中に、魔族の声が响き渡って、ディルトの背中を嫌な予感が駆け降りる。
『楽しめよ』
『俺たちに远虑なんかしなくていいからな』
告げられた不穏な言叶に、贵様ら、何を考えている…!とディルトは眉を吊り上げたが、魔族たちはそんなディルトの様子を冷笑しながら嘲るだけで、それ以上の言叶は返さなかった。
「じゃ、せいぜい楽しめよ。勇者サマ。俺たちはしばらくしたら、また様子见に来てやるからよォ」
「!!」
短い沈黙が落ちた後、口を开いたのは軽薄そうな笑みを浮かべた魔族だった。
「ま、待て……!」
声と同时に踵を返し、湿った岩肌を踏みしめる音を鸣らしながら牢の格子をる魔族たちに、痛む胸を押さえたディルトが、呼吸も整えぬまま言叶だけで追いすがっても、彼らの足は止まらない。
「それじゃあな」
「へへへ、あばよ。勇者サマ」
先刻同様、がちり、と低く钝い音が反响すると、天井から吊るされるような体势で眉间に皱を寄せるディルトの前では、唯一の希望への繋がりだった外界への道が絶たれていく。
「ま、待て……!贵様ら……ッ!!何を……!!おい…ッ!!待て…!!贵様らァッ!!」
まるで牢の向こう侧に漂う薄暗い闇に溶けるように消えていった二体の魔族の背中に向けて、ディルトは必至になって声を上げたが、唇を曲げて叫ぶ彼に跳ね返るのは、虚しい自身の声だけだった。
07
「く…そ……ッ」
思わず口をついて出た悪态に、ディルトが自嘲する暇もなかった。
ごとり。
「!!」
再び静寂に包まれた牢狱内に不意に响いた物音に、ディルトは弾かれたように顔を上げると、音のした方向へと势い任せに己の首をねじ向けた。
ごとり。
「……!」
再び闻こえた不穏な音色に、ディルトが目を凝らし鉄格子近くの床の上を覗き込むと、そこには木造りの樽のような物が置かれている。
あれは……。
先刻、牢の中へと足を踏み入れたあの忌々しい魔族の片割れが置き去りにしていったものだと、ディルトが记忆をたぐるうち、樽の中からはまたしても不気味な物音が鸣り渡った。
「く……!」
何が起こるのか、どうなるのか、それは眼前で対峙しているディルト自身にも分からない。
だが、今から起ころうとしている事が、自分にとっておよそ好ましくない结果を生むものである事だけは……嫌という程に分かっている。
『ゆっくり楽しめよ、勇者サマ』
最前の魔族の声と、卑しげに歪められた口元を思い出し、ディルトが薄く整った唇をゆっくりと噛み缔めた、その时だった。
ごとん!
「!!」
今までの静かな物音とは打って変わって、盛大な音色が牢の中へと反响したのだ。
「だ、谁だッ!!」
反射的に吐き出した言叶と共に、繋がれた身体でできうる限りの构えを取ると、ディルトは目の前の樽を射抜かんばかりにねめつける。
一体……何が……!
ごくり、と唾を饮み込んで、痛む両腕に力を込めると同时に、ディルトは无意识のうちに爱剣の柄を探そうとして、それから短く舌を打った。
「く……ッ!」
记忆にはない剥夺と、完全に自由を夺われた事にいらだちながら、ディルトがいまだ足枷に捕らえられたままの両足を踏みしめ、身构えた途端。
ごとん!!
「ッ!!」
木制の樽はもう一度强く不穏な音を奏でると、その上辺部分から金属制の盖を弾き飞ばしたのだ。
强い势いと共に盖を跳ね上げた樽は、バランスを崩してそのまま横ざまに倒れ込むと、耳障りな音と共に、床の上を不规则な动きで転がった。
「な、なん…だ……!」
一切の予想もつかぬ出来事に、ただ歯列を噛んで全身を紧张させる事しかできないで、ディルトは目の前の成り行きを见守った。
繋がれた四肢、伤ついた身体、そして剥夺された武器や防具。
この状况で、人间よりも遥かに逞しい巨躯を持つ魔族たちに対し、自分が何をできるのか、それを考えると思わず触れた床を踏みしめる両足が震えそうになったが、ディルトはその不安と恐れを头ひとつ振るだけで打ち払う。
何があっても、どんな目に遭っても。