、お前ェはアレを持ってきてくれ」
まるで日常の中の一コマ、とでも言えそうな程の軽い口调で魔族が言うと、その対面で言叶を受けたもう一方は、これもまたひどく軽率に『ああ』とだけ颔いて牢の入り口付近へ屈みこむ。
「おおし、そんじゃ、今からこの锁と枷を外してやるが……いいな、妙な気は起こすんじゃあねェぞ…?俺たちは司祭様から『いざとなれば腕の一本や二本は打ち舍てても构わん』って言われてるんだ。お前も长年爱剣を振るってきたきき腕が、身体から离れちまうのは见たくねえだろ?だったら……少しばかり大人しくしてるこった。ま、そうは言ってもその身体じゃあ……俺たちに伤を负わせて逃げるどころか、一人で走る事もできねェだろうがなァ……!!」
「ッ……!」
くつくつと喉を鸣らして邪笑する魔族の男は、言叶を终えると、宣言通りディルトの身体を拘束していた太い锁を低い天井から引き剥がした。
「あ……あ……」
途端、长时间に渡りディルトを缚っていた戒めはあまりにあっけなくほどかれて、その代わりに彼の肢体には重い重力の枷がのしかかる。
「う、あ……!」
どすん、と响いた钝い音を双方の鼓膜で闻いたあと、ディルトは自分の頬が冷えてれた地面へと接地している事に気が付いて、虚ろな胸の中、ああ、自分はやっと解放されたのだ、と安堵した。
「はん、なんだよ。走るどころか、立ち上がる事もできねェってか?まァそれも仕方ねえなァ、何しろお前ェは七日间も……ここに繋がれてたんだからなァ」
「…………」
头の上で魔族の声が低く响くが、もうそれにすら満足な反応を返せずに、ディルトは薄く开いた视线を伏せた。
散々に侵し抜かれ、弄ばれ続けた火照った肌に、れ、湿った床面が心地よかった。
繋がれ続け、拘束され続けた四肢が、热い血流と共に感覚を取り戻していくのを感じると、ディルトは细く息を吐く。
まだ――生きている――。
「ッ……」
延々と、嬲られ続けた身体は热い。
缲り返し、侵され続けた精神は今にも陥落しきってしまいそうだ。
けれど、もう、どうする事もできないのだ――。
「ッ…は……あ……は……あ…」
闭じていた睑を薄く开くと、暗い天井が自分に迫ってくるような错覚に囚われて、ディルトは再び目を瞑る。
夸りを舍てた訳ではない――。
高洁な気骨を保つ事を谛めてしまった訳ではない――。
ただ、それ以上に――。
それ以上に、身に降りかかる悪辣な现実が。
肌の下で蠢く淫らな热病が。
冷えようと跃起になる身体をじくじくと奥深くから燃やし続ける己の本能と隣り合わせの淫欲が――。
ただ、単纯に、何よりも、强大な力を持っているだけなのだ――。
「ッ……」
硬く睑を闭じながら眉间に深い皱を寄せると、弄ばれて性感を感じている最中よりは几分冷静になった脳里に、过去の思い出が苏った。
夸るべき仲间たちと共に、剣を取ったあの日。
大切な谁かの为に、この身を捧げて闘うと誓ったあの日。
そのどれもが、美しく、かけがえのない色で彩られ、辉いている――だが。
「さァて……それじゃあこっちの准备も整ったし……そろそろ起きてもらいましょうかねェ……!淫乱雄ザル勇者サマ……!!」
「ッ!!」
それらはもう、今の自分には――。
もはや、身の内からせり上がる雄の本能と欲求から目を逸らす事のできない自分には――。
决して、手の届かない风景なのだ――。
「ほォら、さっさと起きろ…!淫乱野郎!」
「く…ッ!」
力强く濡れた头髪を掴まれて、ぐい、と後头部を持ち上げられた瞬间に、强引な动作で横たえていた身体が引き起こされる。
淀んだ水たまりの浮く湿った床面の冷気のせいで、着しく下がった外皮温に、牢内のこもった空気が热かった。
「は……ァ……」
「ホォラ、呆けてねェでしっかり立てよ!ちゃーんと准备をしていかねェと……せっかくの『本番』が盛り下がっちまうからなァ……!!お前もせっかく七日もかけて『准备』したんだ。その集大成の『本番』が失败でした、なんて、そんなの笑うに笑えねえだろ……?」
下卑た笑顔で告げる魔族に、もはや抵抗しようとは思えなかった。