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「な……!な、にを言って……!!」
目の前で嗤う魔族の言叶に、ディルトが顔色を青くしながら热い身体中から血の気が引いていくのを感じた直後、冷たく光る鉄格子の向こう侧で、もうひとつの低い声色が持ち上がった。
「おう、どんな様子だ?勇者サマは」
「ッ!」
闻こえた声に弾かれたように顔を上げると、视线の先、格子の向こうでは、先刻牢の中へとテールの入った木樽を运んだもう一人の魔族が頬を吊り上げながら、ディルトの様子を愉快そうに见下ろしていた。
「き、きさ…ま……ッ!」
「おお?なんだァ?勇者サマの野郎、随分语気が弱々しくなっちまったじゃねェか」
「ッ……!」
揶揄するような口调でわざとらしく嗤う男に、身体の内侧で鎌首をもたげた屈辱感を煽られて、ディルトが忌々しげに唇を噛んだ瞬间、またしても、下の内侧で、粘つく触手が跳ね上がった。
「ッく……う…!」
「おお?なんだァ…?今の声は」
「……ッ」
咄嗟に奥歯を噛んだ瞬间に、悲鸣めいた短い声音が引き结んだ唇の内侧からこぼれ出て、それは牢の外で愉快気に口端を吊り上げる魔族たちの鼓膜を震わせる。
「おい、どうしたよ、勇者サマ。テメエ、さっきまでと随分様子が违うじゃねェか。なんだ?もしかして独りで锁に繋がれてる间に、魔王様に刃を向けた事を悔い改めたってか?いやあ、さすがにそれはねェよなァ。だったら……おお、もしかして、さっき俺が『差し入れて』やったソイツに、そんな声が出ちまうほど、タップリ『オシオキ』されちまったってかァ?」
「く……ッ!」
唇を噛んで视线を伏せる肢体を见ながら、魔族が軽薄な笑みを浮かべて言い放った直後、鉄格子の外では盛大で下品な嘲笑が沸き起こって、ディルトはその嗤い声に勇者としての沽券を踏みにじられると、细めた视线で自らの足元の岩肌を睨みつけた。
こんな……屈辱を……!
一度は魔王に刃を向けて、あまつさえそれを讨伐せしめようとした勇ましき勇者であるはずの自分が、今は暗く狭いshiった牢の中に幽闭されて、魔族たちの嘲弄の的になっている。
それも、得体の知れぬ生物を体内に受け入れ、あろう事か、その生き物の蠢动に、男としての耻ずべき劣情を煽られて――。
「く……ッ」
头の中心に浮かんだ自分自身の客観的な现况に、ディルトが今一度大きく顔をしかめながら息を杀すと、そんな様子を眺める魔族は声も出さずに邪な笑みでディルトを射抜く。
「へへへ……!イイ格好だぜェ、勇者サマよ!とっ捕まえた当初は散々伟そうなごたくを并べて『杀すでも拷问するでも好きにしろ』なんて大见得切ってたが……くくくッ!今じゃそんなモンは见る影もねえよなァ!なんたって……人间の最後の希望の勇者サマは……今は魔界の牢の中で魔吸虫としっぽり仲良しデート中ときたもんだ!くくくくッ!いやあ、ホントにイイ格好だぜ!勇者サマ!立派な铠も剥がされて、パンツ一丁の情けねェ姿に剥かれた挙句……ははッ!ほォら!今は尻のxueに太ってェモンが入っちまってるんだろォ?!ホラホラ、そんな顔して隠さなくったってイイんだぜェ?ソイツが尻のxueに入りこむのが大好きなイキモンだってのは、ちゃんと俺たちも知ってるからよォ!ああ、そうだ、そういやテメエら人间はその魔吸虫の事を『テール』だとかって呼ぶらしいなァ?最初闻いた时は、まァなんつう安直な名前付けやがるんだ、って心底呆れかえったモンだったが……だがまァ、こうして実际人间の尻にソイツが入って蠢いてる所を见てみると……なかなかどうして、テールって名前も适切だったと思えてくるぜェ!负け犬になった人间风情にゃあ、そういう无様な尻尾がお似合いだし、それになんたって、その『テールちゃん』のおかげで、ようやく勇者サマがその高洁なツラの下に隠した低俗な男の『尻尾』を出したんだからよォ!!」
「ッ……!き…ッさまァ……!」
「ハハハッ!おおっと怖えェ怖えェ!救世の勇者サマがお怒りなさったぜェ!すげェ目ェしてこっちを睨んで……こりゃあ恐くてションベン漏らしちまいそうだぜェ!!」
「ッ…!!」
下卑た邪笑が沸き起こる格子の外を睨みつけると、ディルトの中で愤怒の炎が沸き上がる。
しかし、そうした真っ赤な红莲が燃え上がる高洁な意思と决意のすぐ隣で、触手たちに炙りだされた下劣なyIn炎が音を立てながら延焼していくのもまた事実だった。
「く……ッ!!」