れるたびに何を思ってるか、なんて……考えた事も……ねェだろォ?」
「ッ…!!」
狭い牢の岩肌に反射する魔族の声が鼓膜に届くと、その短くも嗤いを含んだ声がディルトの身体中を駆け巡る。
『俺たちが楽しいからやる』
『面白ェからやる』
それ……だけ……だと……!?
「くくく…!楽しみだぜェ……?今回捕まえた蝶は今までにねェ程大物で……おまけに蝶の世界の希望の星ときてやがる。こりゃあ一枚ずつ翅を毟って无様な芋虫に堕とすのは……さぞかし愉快で気持ちイイだろうなァ……!!」
「き、さま……!」
もはや怒りを通し越した灼热感をいなす方法も分からなくなりつつあるディルトが、震える声と共に眼前の暗がりの中に浮かぶシルエットを射抜くように睨みつけると、魔族の男は、そんなディルトの胸中を知った上で、挑発するように唇の端を吊り上げた。
「くくくく……だからよォ。今回は俺たちもしっかりじっくり考えたワケだ。せっかく捕まえた立派で代わりのいねェ蝶の王サマ。それの翅を毟るのに、突発的に、谁かが一人で、なんて、ズルいしなによりつまらねえ。だったら……」
「ッ……」
细めた声で魔族が嗤うと、ごくりと唾液を咽下するディルトの喉を、冷たい汗が伝い落ちていく。
含みのある邪笑をことさら深くする眼前の男の歪んだ口元に、体内の不穏な想像が不吉な音を立てて膨らむと、それはつい先刻奋い立たせたディルトの高洁な愤慨までをも饮み込む程に肥大する。
仲间や自分の救済を待ち望む罪のない人々を贬められ、軽侮された煮え滚る怒りはいまだ体内に宿しているが、それとは全く别の所で、身体が……いや、生き物としての生存本能が、目の前で薄く嗤う男に危机感を覚え、萎缩する。
不敌に嗤う眼前の男――そして、最前投げつけられた『杀さねェ』の言叶――つまり。
「…………ッ……」
淀み始めた思考回路のその先で、おぞましい问の答えがゆっくりと持ちあがっていくその间に、ディルトの脳内と体内では、勇ましき戦士としての愤りと、それとは正反対の场所に存在する生物として生命を守る本能が、互いを引き合うように拮抗すると、音を立てながらもつれ合って暴れ出す。
目の前に居るのは、自分とは隔絶した场所に生きる悪辣な秩序を持つ别种なのだ――刃を交えてはいけない――!
いや――!仲间や人々を愚弄し、踏みにじるこの男を、许すわけにはいかないのだ……!!例え、自分が死ぬよりも非道な仕打ちを受ける事になろとも――!!
全身が真っ赤な警报を鸣らすすぐ傍らで、勇者としての気骨と夸りが奋い立ちながら吼え上げる。
もはや自らの理性的制御の働かぬ本能的な反射と、己の命よりも大切な信念の狭间で、ディルトが无自覚の板挟みに陥りながら、背筋を伝う冷たい汗に、ぶるり、と小さく身震いをした――直後だった。
「だったら、皆で――。そう、俺たち魔族全员で――。お绮丽で立派なその翅を……手酷く、无惨に。引きちぎって、毟り取って。そして思いっきりいたぶってやろうって……そう决めたんだよォ……!!」
「…ッ!!」
湿った鼓膜に滑り込ませるように、低く、ゆっくりと告げられたその声に、ディルトは全身を冷え切った指先で抚で上げられた気がした。
『魔族全员で――引きちぎって、毟り取って――そして――』
「ッ……!!!!」
ぞくり、と身震いするほどの悪寒が背中を走って、ディルトが无意识のうちに喉元を上下させる姿を见とめると、魔族の男はさも愉快そうにくつくつと唇を歪ませ嗤いを漏らす。
「くくくッ!だからよ、テメエには死んでもらっちゃあ困るんだ。テメエが死んじまったら……俺たちがせっかく手に入れた、最高の娯楽がなくなっちまうからよォ……!!」
「き…っさまァ……!!」
「ハハッ!まァでも、安心してイイぜェ……?テメエのその高洁で勇猛な翅を毟る一大イベントの日はまだまだ先だ。それまでは……この牢の中で、大人しく『准备』に勤しんでもらう事になってるからよォ」
「な、に…ッ?!」
「ハハ、言っただろォ?俺らは司祭様から『仕事』を仰せつかってる、ってよ。それが……」
「ッ……!?」
「一大イベントのその日まで、ショーの主役であるテメエの身体を、この牢の中でしっかり『准备』しておく事なんだよ……!!こうやって……なァ!!」